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すぎるさんの実況動画が好きだ。

すぎるさんがTwitterで告知ツイートをすると、夏休みの前日のような気分になる。

私はナポリの男たちから4人の存在を知ったので、第一印象はグループの一員としての彼である。比較的明るくて、気遣い屋な人だと思った。

それから個人実況を見始めたのだが、一番初めに観たシリーズの記憶が定かではない。多分ブリーだった気がする。しかし初見時は、若干抵抗があったことを覚えている。

というのも、私が実況動画に本格的にハマる以前、唯一見ていた実況者の方がいた。キリンさんだ。

元々ホラーゲームを見たいが為に動画を探し、その末に辿り着いた人で、落ち着いた喋りと手慣れたプレイに感嘆しながら視聴していた。その為当時は、「うるさくて下手なプレイ」をする人の実況動画なんて見ていられるか、と思っていた。

にも関わらず、なんとすぎるさんはその「うるさくて下手なプレイ」の実況者だったのだ。まさか、そんな彼の実況をここまで好きになると思わなかった。

ゲーム序盤のすぎるさんのプレイは、お世辞にも上手とは言い難い。かつ説明文も読み飛ばしがちである。もし初めからサクサク進むプレイだったり、解説や考察を同時に聞きたいと望む視聴者がいたら、彼の動画はあまり向いていないのではないかと思う。

しかしすぎるさんが凄いのは、終盤が近付くにつれ見違えるほどプレイが上達していくところだ。その様子が、ゲームの主人公の成長とオーバーラップする瞬間がある。その時、何故か妙な感動がこみ上げて来てしまう。そして、そう感じた時には既にすぎるさんが作り上げる独特の雰囲気に飲まれている。彼は、自身のみならず視聴者までをも、ゲームの世界観に引き摺り込んでしまうのだ。

すぎるさんの実況スタイルは愚直で、時折斜に構えた風だ。代表作「愚痴金」のタイトルからも分かるように、キャラクターを皮肉ったり、イジったりする場面がよく見られる。また、彼の“ちょうひ”とも言える大きな特徴が大声であり、視聴者からは親しみを込めて「ミュート貫通」と言われている。どのシリーズも、大抵全編を通してうるさい。ところが、不思議とそれを鬱陶しいと思うことはない。というのも、すぎるさんは基本的に話が上手いのだ。大きなリアクションに隠れがちなすぎるさんの本質的な面白さみたいなものが、動画のあちこちに詰まっている。

それから、すぎるさんの魅力の一つとして「キャラクターの名前をきちんと覚えない」という部分を挙げたい。これがまた、親戚の叔父さんにゲームさせた時のような、はたまた小学生の甥っ子のゲームプレイを見ている時のような、どっちともつかない絶妙さを感じるのである。どちらにしろ、ユーザーが親近感を持って「バカだなあ」と笑って視聴できるフィールドを作り出すのがかなり上手いと思った。彼の実況には愛嬌がある。

 そんなすぎるさんは、シリーズとシリーズの間隔を長く取ることが多い。過去、失踪と言われていた期間も存在する。明るく天真爛漫なキャラがウリのすぎるさんが、報告無しに引退してしまうのではないか、と視聴者から心配されている様子に凄くギャップを覚えた。危ういというか不安定というか、動画では見えないアンニュイさをこんな形で感じるとはちょっと予想外だった。この時、「実況者すぎる」は彼が作り上げた一面で偶像なのだろう、とふと思う。視聴者が「実況者すぎる」を知る度、知らないことも同じように増えていく。でもそれで良いのだ。すぎるさんがどんな人だとしても、万が一に失踪することがあっても、そこには彼の動画が残る。すぎるさんの動画が面白いという事実だけは、揺らがずそこにあるのだ。

ゲームは自分が知り得ぬ人生の疑似体験だと、私は思う。すぎるさんは時に主人公になり、時に主人公に寄り添う。彼が「もう一つの人生」に挑み、悩み、困難を乗り越える様子が、いつも視聴者に元気を与えてくれる。叶うなら、私の人生もひとつのゲームのように実況してくれないだろうか、と思うことがある。学校も、仕事も、恋愛も、すぎるさんが実況してくれたらきっと、最後にはうまくいく気がするのだ。

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