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幕末志士に出会ったのは2016年末、おそらく好きなイラストレーターさんがTwitterで紹介していた、とかそんな理由で動画を視聴し始めたと思う。

とは言えこの時点で初見ではなく、奴来る全盛期に兄から勧められ一緒に観たことがあった。7、8年前の話だ。また、スマブラも、経緯はよく覚えていないが視聴した記憶がある。
その後間もなく幕末志士のチャンネル会員になることを検討し、さほど躊躇わずぽんと加入した。2017年の春頃なので、およそ一年前になる。
何がきっかけで踏み切ったのかは全く覚えていない。しかし今考えると、ゲームに対する熱心さ、二人の間のパワーバランス、底抜けに明るい笑い声、動画の密度、分かりやすいバグ(!)など、ゲーム実況に疎い人物でも充分に楽しめる要素があったなあと気付く。
排他的…とまでは言わずとも、アングラサブカル?な印象が強いゲーム実況界隈の中で、比較的幕末志士の動画は見易かったのかもしれない(それにしたって、どうしてもコメントは内輪ノリがすごいが)。
会員になってからはさらに彼らに夢中になり、沢山の過去ラジオアーカイブに齧り付き、二人の掛け合いにあれよあれよとのめり込んだ。ドラマの放送曜日も覚えられないのだが、生配信の時間である土曜20時だけは身に刷り込まれ、いつも10分前にはPCの前に鎮座していた。
そんなこんなで、今や私は幕末志士が大好きだ。その理由としていちばんに挙げたいのは「羨ましさ」である。
 
私事だが先日、数少ない友人の1人に結婚と妊娠の報告をされた。その時、祝福の思いと共に、また一人遊んでくれる人が減ってしまったとか、私はこんな風に正しい人生のレールの上を歩むことができるだろうかとかいう気持ちが湧き出てきて、自己嫌悪感に苛まれてしまった。
結局はこどもじみているのだと思った。友人は一足先に大人になった。結婚して子供ができるという幸せを、私はまだリアルに想像できない(なので時折坂本さんが言う「彼女を作るなよ!」という牽制も、なんとなく分かる気がしてしまう)。
 
だからこそ、幕末志士が羨ましい。大人になりきれない大人が、彼らの関係性に憧れてしまう。四半世紀の付き合いを経て尚、小学生時代の思い出話で盛り上がり、互いに一番の友達だと言い、家を行き来し、ゲームをする。その時、彼らの笑い声は、この世のしがらみからいちばん遠いところにある。
 
いつかの配信で坂本さんは、結婚がしたいと言っていた。結婚というステータスが社会的な地盤を固めることになると。坂本さんは見栄っ張りな側面がありそうなので、特別その思いも強いのかもしれない(彼はいつもお得意の早口で嘘を捲し立てているので、ここで視聴者が汲み取れるのは所詮「実況者」としての彼だが)。
確かに結婚は幸せだが、もし私が恋人と世界に二人きりになったら、婚姻届を役所に提出することはないだろう。結婚はしない。けれど幕末志士が世界に二人きりになったとき、彼らはゲーム実況をするんじゃないかと思うのだ。
 
これって多分二人の関係性を消費していることになるので、純粋に実況動画が好きな人からすれば、無粋だと言われてしまうかもしれない。しかし本当に衝撃的だったのだ。彼らはまるでどこか違う銀河系の、小さな惑星に住んでいるのではないかと思わせられるくらい浮世離れしている。極論だが、幕末志士がゲーム実況をやっていようがいまいが、出会ってさえいれば私はきっと好きになっていたと思う(良くも悪くも)。そこにあるのは入り口の違いだけで。
 
とは言え、二人の関係性に憧れることはあっても、二人のような人物と友達になりたいとは思ったことがない。根暗なので、あんなに快活に笑う人と一緒になんていられないからだ。
だからこれでいい。ピーターパンシンドロームをこじらせたダメな大人は、今日も幕末志士の動画を観る。
 
世の中に仕組まれた枠組みと、それに付随した幸せや不幸せが良いとか悪いとかなんて知らないが、無邪気で閉鎖的な二人の笑い声を聴くと、面倒臭いオトナの事情から離れられる気がする。それに何より、彼ら以上に楽しそうに笑う人を私はまだ知らないのだ。いつか二人もそれぞれ結婚し、活動を引退する日が来るのかもしれない。その日まで、いやきっとその後も、幕末志士は私のイデアなのである。